想いにふれるステイ
温泉を“選択する”時代へ。草津から届ける新たな「湯治」のかたち
2026/01/08
「東急ハーヴェストクラブ草津&VIALA」が提案する「Healing Green」は、草津という土地が本来持つ「癒しの力」を引き出し、自然環境と共生しながら心身を深く癒す滞在スタイルです。この構想を実現するために集結したのが、各分野の専門家からなる「Healing Green Studio」。中でも、草津の象徴ともいえる温泉を担当するのが、温泉が持つ天然資源としての価値を高める活動を行う株式会社温泉資源庁(旧Le Furo)代表取締役の三田直樹さんと、医師であり温泉アドバイザーとしても活動する稲葉俊郎さんです。現代における温泉の価値を高め、次世代へ伝えるため、着目したのは「湯治」。あえて歴史ある「湯治」という文化に立ち返りつつ、温泉成分を凝縮した「クラフト温泉」という現代的なアイテムを用いることで、「温泉を選択する」という今までにない楽しみ方にたどりついたのだそう。その斬新な発想によってどんな温泉体験が可能になったのか。「Healing Green Studio」の総合プロデューサーを務める大田由香梨さんと、三田さん、稲葉さんの3人に語っていただきました。
「湯治」の原点、草津温泉で心のリトリートを
草津における新たな滞在スタイル「Healing Green」の総合プロデューサー・大田由香梨さんが、温泉の価値を高める商品の開発を行う三田直樹さんにお声がけしたことから始まった今回のプロジェクト。温泉アドバイザー・稲葉俊郎さんも迎え、クラフト温泉を活用することで新たに生まれた「温泉を選択する」という発想と、そこから誕生した「泉質交代浴」や「喫泉(きっせん)」という温泉体験について3人に伺いました。
大田さん
観光を目的とした旅行が主流の今、リトリートといった、自分の心と身体を癒すために旅に出る——そんな新しい旅のかたちが広がっていくといいなと感じています。そうした思いから、「湯治」というワードが頭に浮かびました。そして現代的な湯治のあり方を一緒に考えるなら、三田さんほどふさわしい人はいないと思ったんです。三田さんは、クラフト温泉を通じて、温泉を資源として再定義し、その新しい活用方法を探る取り組みを進めておられます。今回、温泉文化の新しい可能性を切り拓く第一人者である三田さんとご一緒できたことをうれしく思っています。
三田さん
今回のお話をいただいたとき、自分たちが得意とする「温泉の可能性を引き出す力」を最大限に発揮できる絶好の機会だと感じました。私はいつも、「温泉は貴重な天然資源であり、“MADE IN EARTH”だ」と話しています。温泉のある土地では、植物が根を張り、栄養を吸収するために、胃酸のような役割を持つ根酸を根から分泌する。その酸が石の中のミネラル成分を少しずつ溶かし、やがてそれが水に溶け込んでいく——。そんな気の遠くなるような過程を経て生まれる奇跡の水こそが温泉なのです。つまり、温泉はその地域の自然に深く根ざした「自然からの贈り物」。私たちは、先人たちが守り、受け継いできたその恩恵を享受しています。そして今度は、私たちの世代が温泉の力と価値を次の世代へ伝えていく番。そうした思いで、温泉の価値を高める活動を続けてきました。草津は、数ある温泉地の中でも東の横綱といえる存在です。だからこそ今回の挑戦では、効果や安心感も担保したいと考え、医学的な知見をお持ちの稲葉さんにもご参加をお願いしました。
稲葉さん
温泉の価値は、大田さんが着目した湯治という文化的な側面も見過ごせません。医療者の立場から見ると、草津の温泉は単なる観光資源ではなく、心や身体の健康を支える「環境としての価値」を持っていると感じています。私自身も何度も訪れていますが、古くは戦国時代、武将たちが刀傷を癒すために訪れたといわれています。徳川家康も全国の温泉を見た上で、草津の湯をわざわざ江戸まで運ばせていたそうです。そうした歴史の積み重ねが、今日明日では決してつくることができない“時の厚み”を生み、訪れるたびにその重みを感じさせます。草津は、まさに日本のサンクチュアリ的な存在といえるでしょう。現代は、身体の傷よりも心の傷や不安を抱える人が多い時代です。だからこそ、心を癒す温泉としての役割に注目したい。これからの時代、草津から「環境と共にある癒し」を発信していくことが、新しい温泉文化の創造につながると考えています。
「温泉を選択する」という新しい楽しみ方
大田さん
観光を目的にあれもこれもと予定を詰め込むと、かえって心も身体も疲れてしまうことがありますよね。でも温泉の本当の魅力は、ぼーっとできる余白があることだと思うんです。特に自然に囲まれた草津では、何もしない、空白のような時間が自然と生まれます。草津という場所を訪れ、そこで時間を過ごすことで、心も身体も癒される。それこそが、「Healing Green」の中で私が一番大切にしたいポイントでした。
三田さん
温泉は地域や自然への依存度が高いため、温泉地を訪れたら、その土地の泉質を体験するのがこれまでは一般的でした。しかし、人によって、あるいは同じ人でも気分や体調によって、求める泉質や効果は異なります。そこで、それぞれの身体の状態に応じて「温泉を選択する」ことができれば、より深い癒しを提供できるのではないかと考えました。
大田さん
「Healing Green」では、最新のセンシングシステムを活用して身体のコンディションを可視化し、宿泊者一人ひとりに合った選択肢を提案したいと考えていたので、三田さんのアイデアはぴったりだと感じました。
泉質の異なる温泉を楽しむ「泉質交代浴」
三田さん
草津の湯は酸性が強く、力があるのが特徴です。日本にある約2万8000の温泉のうち、酸性泉は約1%ほどの希少な存在。だからこそ草津は特別な温泉地ですが、刺激が強いため長湯が難しいという側面もあります。そこで私たちは、源泉地の温泉成分を凝縮した温泉濃縮液・クラフト温泉を活用し、ゆったり浸かれるアルカリ性の泉質も本施設で楽しめるようにしました。強い酸性泉の草津に、反対の性質をもつアルカリ性温泉を用意することで、体調や目的に合わせた体験の選択が可能に。たとえば酸性泉でリフレッシュしたあと、中性やアルカリ性の湯でゆっくり過ごす——そんなふうに泉質を使い分ける「泉質交代浴」が、現代における湯治の新たな可能性を切り拓いてくれると思います。
稲葉さん
泉質が異なれば、当然その効果も変わってきます。草津温泉のような強い酸性泉は、肌のターンオーバーを促す効果があるので、アトピーなどの改善にも役立つとされています。一方で、アルカリ性泉は肌あたりがやわらかく、肌をなめらかに整える効果が期待できます。また、2014年に「鉱泉分析法指針」が改定され、温泉が不眠症や抑うつ、自律神経の乱れなど、心の不調にも効くことが正式に認められました。中でもミネラル分が少なく、25度以上と定義される「単純温泉」は、クセがなく長く入浴できるため、心を落ち着かせ、マインドフルな時間を過ごすのに最適です。泉質の選択肢が増えることで、それぞれのお湯の特性を意識しながら入れるようになり、草津の魅力をより深く感じてもらえると思います。
蒸気で身体に取り込む温泉習慣「喫泉」
三田さん
本施設では「喫泉」という新しい温泉習慣も提案しています。これは、特殊な装置を使って温泉を気化させ、温泉の“雲”をつくり、その中に滞在しながら蒸気となった温泉成分を身体に取り込むというもの。この雲には高濃度の温泉成分が含まれており、高い吸収率が期待できます。本施設での体験方法は2つ。Retreat greenの客室では温泉ディフューザーから出るミストが部屋を満たし、温泉成分が睡眠の質を高めます。また湯屋棟では、ミストサウナとしてよりじっくりと喫泉を体験いただけます。どちらの方法でも、リラックスしたいとき、エネルギーをチャージしたいときなど、その日の気分や体調に合わせて泉質を選択してもらうことが可能です。
稲葉さん
温泉に含まれる主な成分はミネラルです。ミネラルというと、野菜や果物などの食材から摂るイメージがありますが、実は温泉にも豊富に含まれています。昔の人は、コップ一杯の温泉水を飲む「飲泉」という養生法を取り入れ、健康を保ってきました。今回の「喫泉」はその考え方を進化させ、イノベーションにより肌や呼吸からミネラルを吸収できるようにしたのが大きな特徴です。温泉地を訪れたときに「なんだか気持ちがいい」と感じるのは、空気中に漂う気化した温泉が体内に取り込まれているから。どんな空気を吸い、何を皮膚から取り入れるかが、健康にとっていかに大切かが分かります。
三田さん
ミネラルの最も重要な役割は「触媒作用」です。人間の身体の中では絶えず化学反応が起きていますが、ミネラルが不足するとその反応が鈍くなり、内臓の働きが低下したり、元気がなくなったりします。マルチミネラルスープのような温泉を体内に取り入れることで、この「触媒作用」が活性化し、身体の反応を促すことができるのです。
稲葉さん
ただ温泉の効果や湯治には、自然治癒力という目に見えない力も関わっており、まだ解明されていない部分も多くあります。だからこそ草津で過ごすときには、物質的なものや論理的思考から離れ、ゆったりと流れる時間に身を委ねてほしい。本来の自分を取り戻す時間として、温泉と向き合ってもらえたらと思います。
「Healing Green」で自然や命へ想いを馳せて
三田さん
仕事柄、世界各地を調べてきましたが、日本ほど多様な水と鉱石が存在する国はありません。特に草津のような酸性泉は、長い時間をかけて自然の営みが生み出した貴重な存在です。こうした温泉や湯治の恩恵を受けられるのは、自然や、それを守り伝えてきた先人たちのおかげ。感謝の気持ちを持ちながら大切に活用して次世代へ伝えていくことが大事だと感じています。本施設では、そうした思いを込めて、さまざまな温泉の楽しみ方を提案してきました。これまで温泉の社会実装を目指してきた私たちの活動の集大成といえるものになったと思います。
稲葉さん
温泉は、ただ消費するための「物」ではなく、地球の生命活動の循環の中にある存在です。私たちはその恩恵を一時的に受け、元気を取り戻して生きている。地球から奪うのではなく、自然に感謝しながら使わせてもらう。当たり前のようでいて、忘れられがちな“命の水”としての温泉を思い出すきっかけになればと思っています。「環境と共にある癒し」の時間を通じて、自分の命や他の方の命を大切にしたいという気持ちを感じてもらえたらうれしいですね。
大田さん
自分としっかり向き合い、命への感謝を深める。そんな時間を、この「Healing Green」で提供できるのではないかと感じています。「Healing Green Studio」の皆さんとともに、ヨガやサウナ、食、香りなど、温泉以外の力も活用し、訪れる人の心と身体を癒し、さらには自然の豊かさや命の尊さを分かち合える場をつくっていきたいと思います。
大田由香梨
ライフスタイリスト/総合プロデューサー
人の営みに必要な衣・食・住をスタイリングする「ライフスタイリスト」として活動。持続可能な社会の実現と心身の健康や成長を大切に、ウェルビーイングで美しい未来のライフスタイルを提唱している。本施設では、サステナブルなパーソナライズ体験の設計と、美しくゆとりのある空間をプロデュース監修。
三田直樹
株式会社温泉資源庁(旧Le Furo) 代表取締役
株式会社温泉資源庁にて、天然温泉に熟成土と鉱石を混ぜ合わせ丁寧にドリップを重ねることで深みのある温泉を生み出す「クラフト温泉」を手掛ける。本施設では、温泉成分を凝縮したクラフト温泉を使用したTOJI SPA&喫泉を提案する。
稲葉俊郎
温泉アドバイザー
慶応義塾大学SDM特任教授。武蔵野大学ウェルビーイング学部客員教授。東大病院循環器内科、軽井沢病院長を経て現職。新しい医療の場として温泉・湯治場を提唱。本施設では、ゲストの今の心と身体のコンディションに合わせた草津温泉の楽しみ方を提案する。