想いにふれるステイ
サウナ師匠が考える現代人に向けた湯治、心も“ととのう”サウナとは?
2025/07/31
「東急ハーヴェストクラブ草津&VIALA」が提案する、自然環境と共生した心身を深く癒す滞在スタイル「Healing Green」。草津という土地が本来持つ「癒しの力」を引き出すために集まったのが、専門家集団 「Healing Green Studio」です。その中でも、温泉とも関連の深い重要なポスト、サウナ監修にサウナ師匠こと秋山大輔さんが抜擢されました。古くからの湯治文化を今の時代に合わせて再構築し、次世代へ継承する。それを実現するために、サウナ師匠は「ディスティネーションサウナ」を設計したと言います。草津を訪れないと体験できない価値があり、旅の目的地ともなり得るサウナとは、一体どういうものなのか?「Healing Green Studio」メンバーであるライフスタイリストの大田由香梨さんとサウナ師匠に語っていただきました。
「湯治」という文化を、現代に再構築するために
自然環境と共生した心身を深く癒す滞在スタイル「Healing Green」における「リトリート」体験の入り口で「自分と向き合うための装置」として重要な役割を担うと、大田さんが話す本施設のサウナ。その監修を務めるサウナ師匠は、長い歴史を持つ草津の湯治文化に敬意を表しつつも、現代版にアップデートし、次世代へと継承していくことを目指したと言います。傾斜のある地形を活かし、豊かな自然環境に没入できるサウナが生まれた経緯を、お二人に伺いました。
大田さん
サウナは現在、トレンドとして大変注目されていますが、少し男性的なイメージが強かったり、一過性の流行という側面を感じたりすることも多かったんです。そうした中で、サウナ師匠は単に「ととのう」という個人の感覚だけでなく、サウナがもたらす心の豊かさや、サウナを通じた時間の共有、人とのつながりといった本質的な価値に一貫して向き合い続けてきました。そこから生まれるコミュニティを大切にし、文化としてのサウナを丁寧に育て、長い目線でモノづくりやコトづくりを行っています。その姿勢に、私はこれまでも強く共感してきました。それは「Healing Green」の根幹とも通じます。短期的な滞在ではなく、暮らしのもう一つの場所として、人生と共に時間を積み重ねていく施設を目指す今回のプロジェクトに、サウナ師匠は適任だと思いました。
サウナ師匠
草津といえば日本を代表する温泉地。この地で、サウナをどういうアプローチでつくるべきかということをまず考えました。そして、昔から受け継がれてきた「湯治」という文化を、現代にふさわしい形で再構築し、今の若い人や未来の子どもたちに繋げていきたいと思ったんです。実際に草津を訪れると、良い温泉がたくさんあって、多くの人が癒されに集まってきていて、温泉を中心としたカルチャーがしっかり根付いていました。そうした草津が築いてきた価値をきちんと伝えなくてはというプレッシャーは、大阪万博でのプロジェクトと比較しても決して劣らない、むしろそれ以上に感じました。
地形を活かしたディスティネーションサウナ
サウナ師匠
もう一つ、現地を訪れて感じたのは、標高が高く、緑に囲まれた自然豊かな環境が、サウナにとってはポジティブな要素だなということです。澄んだ空気や冷たい水など、四季で表情が変わるので、1年を通して、印象の違うサウナ体験を提供できます。また、今回のプロジェクトで湯屋棟が建つエリアは傾斜があるのですが、それによって独特の景観が作れることも強みにしました。難しい立地を逆手に取ることで、今回伝えたかった、草津が本来持つ自然の恵みや癒しの力を活かすことができたと思います。
サウナ師匠
万博のサウナプロジェクトでは、あえて木を使わず、膜素材を採用して自然との一体感を追求した経験も活きています。万博同様、今回のプロジェクトも、仕様や構造ではなく、伝えたい想いを中心に据えて考えました。子どもの頃は誰もが「土」や「空」といった自然そのものに強い関心を持っていたけれど、大人になるに連れて目の前のことしか見えなくなり、自然との距離も遠ざかっていきますよね。だからこそ、今あらためて自然への気づきを取り戻すことが重要なのではないかと考えたんです。そのため、「グラウンドサウナ」と「スカイサウナ」という二つのブランドに分かれた構造になっています。「グラウンド」は地面以外の要素を可能な限り排除し、とにかく地面を見せる空間を演出しました。地面に意識をフォーカスさせることで、命が生まれる土地を感じられると思います。
サウナ師匠
一方の「スカイ」は、頭上に広がる雲の動きや風の流れ、夕焼けや星空が眺められる設計にしました。空の変化を見つめるうちに、人間の原点に立ち返るような感覚を得られることを意図しています。春には蝶々が飛んできて、冬には雪が積もり、もしかしたら暗くなって地面が見えないかもしれません。でも、そこに意識をフォーカスさせることで、元々あったけれど日常では気づかなかった景色が見えるようになると思います。
サウナ師匠
少し前まで、サウナはどれも同じ木の箱のようなデザインでした。それでは日本中どこに行っても、サウナの体験価値は変わりません。ホテルのエントランスから客室、大浴場と統一された世界観が、サウナを開けた瞬間に消えるというのが、日本のサウナ環境だったんです。今回、「Healing Green」の世界観をサウナ空間・サウナ体験にまで落とし込むべく、テーマ設定もすごく大切にしました。現地に行く価値がある、そこでしか体験できない、「地産地消」と言い得るサウナ。旅の目的地になり得る「ディスティネーションサウナ」を目指しました。
サウナは、日常から癒しに向かうための入り口
大田さん
一般的に観光というと、人に勧められたものを受け取る体験が多いと思うんです。本施設で提案する「Healing Green」では、訪れた方が体験を通して自分の内側に意識を向ける機会を提供したいと思っています。そのためには、まず日々の喧騒や日常生活から一度距離を置くことが大事。ヨガや食、温泉などのさまざまな体験も、自分の心が開いていない状態では、ヨガや食事に集中できなかったり、お風呂もすぐにのぼせたり、本来の十分な効果は得られません。そこで自分自身を見つめ、自分の自然な姿に戻る時間を与えてくれるのが、サウナだと考えています。Healing Greenが提供するリトリート体験の入り口にサウナがあることで、日常から癒しに向かう準備が整う——プログラムの設計において、とても重要な要素だと思っています。
サウナ師匠
これまで僕はサウナをきっかけに健康に対する意識が変わったり、自分との向き合い方が変わったりといった、サウナで人生が変わった人をたくさん見てきました。かつての湯治は身体的な回復という役割が強かったけれど、現代のストレス社会では内面的な回復がとても重要で、そのために必要なものがリトリート体験だと思います。ずっと戦っているような状況から一度離れることで、日常を俯瞰的に見られるし、自分を見つめ直すことができます。その体験において重要なのが、心身を委ねられる安心安全が担保されていることです。今回のプロジェクトでは、さまざまな分野のスペシャリストが体験設計の段階から関わり、本質的な価値提供を考え抜いています。そうしたプロの本気が詰め込まれた施設は心を開きやすい環境になっていると思いますし、サウナが本来持つ最大限の力を体感していただけると思います。その環境の中で日常を俯瞰して捉えることができ、深い気づきをたくさん得られるはずです。
大田さん
スペシャリストのサポートがあるというのは、すごく安心感がありますよね。サウナにどう入っていいか分からないという人や、その時の体調に対して、サウナ師匠のリコメンドを体験できるんです。普段は師匠に会える人でないといただけないアドバイスを、多くの人が享受できるのは、非常に価値のあることだと思います。「なんでもできます」と言われると選べないけれど、プロの提案がひと言あるだけで、初めてのことでも体験してみようと思えたりしますよね。一方で「頑張りたい」と思っていても、体調やコンディションが整っていないと、実行に結びつかないことも。「Healing Green」ではそこに医学的な検証や客観的な視点を入れることによって、「自分の状態」に気づくきっかけが生まれ、本来の効果につながりやすくなると考えています。「旅に出たのだから、こうしなければいけない」という決まりはないですよね。
環境自体を体験価値に変え、自分を見つめ直す機会に
サウナ師匠
異なる背景を持った人々が訪れる中、多様な個々に対し、ひとつの手段だけでは本質的なアプローチにはなりません。本施設で提案する「Healing Green」には宿泊、体験、食事など、パーソナルなニーズに応じた選択肢があるように、定着しつつあるサウナ文化も今後は個別に設計されていくことが重要だと考えています。だから、今回は1セットのみのメニューや3セットしっかり入るメニューなど、さまざまなバリエーションのサウナ体験を提供したいと思っています。いろんなレパートリーを試していただいて、自分なりの「ととのえ方」を探してほしいし、それが毎回同じでなくてもいいんです。春夏秋冬で気温が違えば、外気浴の感じ方も違います。いろんな季節に何度でも来てもらって、自分なり、季節なりの入り方を見つけてくれることが、まさに自分と向き合うということなのかなと思います。
大田さん
日本には、四季どころか七十二候という季節の変化がありますから。その細やかな変化に合わせて、定期的に自分自身と向き合いたくなる場所になるんじゃないかと期待しています。そして、それが今後スタンダードになってくれたらと思っています。
サウナ師匠
着工してさらに、現場に深く関わることで、空間としての質も体験価値もアップグレードしていけると確信しています。この施設は五感に働きかける多様な仕掛けが施されており、サウナや温浴の体験においても、それらを踏まえながら、より自分と向き合える施設にするために、自分の力を最大限に活かしたいと思っています。
大田さん
「Healing Green」は、草津の自然環境や地形そのものを活かした設計によって、訪れる人々がナチュラルな環境の中で自分と向き合う体験をし、日常から一歩退くリトリート体験を可能にしています。単なる滞在ではなく、環境そのものを体験価値に変え、自分の状態を見つめ直す。その機会を生み出す体験価値への変換が、このプロジェクトの目指す姿だと思っています。都会の喧騒を忘れ、地域の魅力を体験しながら過ごすことで、訪れた方が来たときよりも、より良くなって帰っていくことができるんです。そして、東急ハーヴェストクラブ草津&VIALAが、また戻ってきたいと思える場所になるといいなと思います。
大田由香梨
ライフスタイリスト/総合プロデューサー
人の営みに必要な衣・食・住をスタイリングする「ライフスタイリスト」として活動。持続可能な社会の実現と心身の健康や成長を大切に、ウェルビーイングで美しい未来のライフスタイルを提唱している。本施設では、サステナブルなパーソナライズ体験の設計と、美しくゆとりのある空間をプロデュース監修。
秋山大輔・サウナ師匠
サウナプロデューサー/サウナ監修
イベントを軸としたブランディング会社を経営しながら、世界を舞台に活動するプロサウナー。日本最大級のサウナイベントやアワード、革新的サウナ空間のプロデュースを手がけ、2025年大阪・関西万博では主催者催事 万博サウナ「太陽のつぼみ」の総合プロデューサーを務める。世界No.1サウナブランド「Harvia」からグローバルアンバサダーに任命され、日本のサウナカルチャーを未来へと導くキーパーソンとして国内外で注目を集める。日本発の感性と世界水準の視座を掛け合わせ、世界とつながる次世代サウナ文化を創出している。「東急ハーヴェストクラブ草津&VIALA」のサウナ監修を務める。